■DSM-IV-TRにおけるうつ病(大うつ病性障害)のサブタイプ
メランコリー型うつ病 (en:Melancholic depression)
非定型うつ病 (en:Atypical depression)
緊張性うつ病 (en:Catatonia)
産後うつ病 (en:Postpartum depression)(DSM-5では出産前後のうつ病)
季節性情動障害 (en:Seasonal affective disorder)
■DSM-5で追加されたうつ病(大うつ病性障害)のサブタイプ
破壊的気分調節不全障害(児童の持続的・反復的な不機嫌)Disruptive Mood Dysregulation Disorder
月経前不快障害(月経前の気分不安定)(en:Premenstrual Dysphoric Disorder)
●非定型うつ病
通常のうつ病(メランコリー型うつ)は気分が落ち込む状態が長期にわたって持続して気分が明るくならないが、好きなことをしているときなどには気分が明るくなるようなタイプのうつ病は非定型うつといわれ、うつ病の半分程度は非定型とされる。
ただし、非定型うつ病は双極性障害の初期症状と区別しにくいため、とりわけ親族に双極性障害患者がいる場合は、その可能性を考慮する必要がある。
DSM-IV-TR/DSM-5の「非定型」の基準
上記の定義に加えて下記が2つ以上あり、メランコリー型または緊張病性の特徴を満たさない。
1.顕著な体重増加または過食
2.過眠
3.手足や体が鉛の様に重くなる事がある
4.対人関係に過敏
女性に2〜3倍多い。
高齢者はメランコリー型うつが多く、若年者は非定型うつが多い。
●新型うつ病(現代型うつ病)
従前からの典型的なうつ病とは異なる特徴を持つものの総称で、現代型うつ病とも呼ばれる。
従来のメランコリー親和型の性格標識を持たない患者を指すことが多い。
大うつ病性障害の診断基準を満たし、日本のマスメディアなどで上記の非定型うつ病とほぼ同義に扱われているが、専門用語ではなく、精神医学的に厳密な定義はない。
●うつ病概念の拡大
新しいタイプのうつ病を理解するには、日本における精神医学の発展の歴史を知る必要がある。
戦前から日本はドイツ精神医学の影響を受けており、うつ病=内因性うつ病(メランコリー親和型うつ病)と捉えられてきた。
しかし戦後アメリカ精神医学が主流となり、各国と同様に日本においても操作的診断学が導入されるようになると、あらゆる抑うつ症状が全て「大うつ病性障害」に包含されることとなった。
従来の伝統的診断学においては、病前性格論・生活史診断などを組み合わせてうつ病の鑑別診断が行われており、カルテには薬物が奏効する「内因性うつ病」、心理学的問題の解決が求められる「神経症性うつ病」、「境界性パーソナリティ障害に伴う抑うつ症状」などと記されていた。
しかし操作的診断基準とともにうつ病圏が拡大されると、成因が問われず様々な精神疾患の抑うつ症状が「大うつ病性障害」へと混入して診断されることとなった。
その結果成因が問われないままにうつ病と診断がなされ治療されてきたのが、近年増加した新しいタイプのうつ病である。
症候学的には大うつ病性障害の診断基準を満たすため、確かに「うつ病」ではあるが、必ずしも伝統的診断における「うつ病(内因性うつ病)」とは限らないため、抗うつ薬による薬物療法の効果は限局的である。
パーソナリティ障害の合併例には薬物療法と精神療法の併用が勧められており、気分安定薬やSSRI、少量の抗精神病薬が症状の軽減に有効であることが報告されている。
●従来とは対極にある性格標識
これまで従来のメランコリー親和型の性格標識を持たないうつ病患者が数多く報告されてきた。
笠原の退却神経症[、阿倍の未熟型うつ病、広瀬の逃避型抑うつ、松浪の現代型うつ病などである。
これらは提唱者によって少しずつ特徴の捉え方が異なるが、新しいタイプのうつ病の一部である。
樽味はメランコリー親和型と対比させたディスチミア親和型として定義し、市橋は内因性うつ病ではないが、症候学的には大うつ病性障害の操作的診断基準を満たすことから、非うつ病性うつ病と定義した。
樋口はその構造から、境界性うつ病および自己愛性うつ病と定義した。
この種の新しいタイプのうつ病に共通してみられる心性は、役割意識に乏しく、他責的・他罰的で、薬物が奏効せず、遷延化するという点である。
それらの多くはパーソナリティ障害(パーソナリティ障害の傾向を持つ者)と考えられており、多分に自己愛的、回避的心性を読み取ることができる。
なお、諸外国においても同様に成因を問わない操作診断によるうつ病概念の混乱が生じており、Akiskal、Berrios、Donald Klein、Healy ら英米圏を代表する学者13名は連名で、DSMを発行しているアメリカ精神医学会の学会誌である『The American Journal of Psychiatry』において、大うつ病性障害からメランコリアを切り離し、1つの臨床単位として独立させる必要性を提言している。
■■■■■ 原因 ■■■■■
うつ病の発病メカニズムは未だ不明である。
うつ病の原因は単一のメカニズムで説明されるとは限らず、複数の病態からなる症候群である可能性もある。
現在までに、うつ病の発病メカニズムを説明するために、複数の、生物学的あるいは心理学的な仮説が提唱されている。
●生物学的仮説
生物学的仮説としては、薬物の有効性から考え出されたモノアミン仮説、死後脳の解剖結果に基づく仮説、低コレステロールがうつおよび自殺のリスクを高めるとの調査結果、MRIなどの画像診断所見に基づく仮説などがあり、2013年現在も活発に研究が行われている。
モノアミン仮説のうち、近年はSSRIとよばれるセロトニンの代謝に関係した薬物の売り上げ増加に伴い、セロトニン仮説がよく語られる。
また、海馬の神経損傷も論じられている。
しかしながら、臨床的治療場面を大きく変えるほどの影響力のある生物学的な基礎研究はなく、決定的な結論は得られていない。
臨床現場では抗うつ薬を投与することでセロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きを促す治療が行われているが、あくまで対症療法的なものであり、成因の解明は新たな治療薬の開発に役立つことが期待されている。
●モノアミン仮説
1956年、抗結核薬であるイプロニアジド、統合失調症薬として開発中であったイミプラミンが、KlineやKuhnにより抗うつ作用も有することが発見された。
発見当初は作用機序は明らかにされておらず、他の治療に使われる薬物の薬効が偶然発見されたものであった。
その後イプロニアジドからモノアミン酸化酵素(MAO)阻害作用、イミプラミンにノルアドレナリン・セロトニンの再取り込み阻害作用があることが発見された。
その後これらの薬物に類似の作用機序を持つ薬物が多く開発され、抗うつ作用を有することが臨床試験の結果明らかなった。
よってモノアミン仮説とは、大うつ病性障害などのうつ状態は、モノアミン類、ノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質の低下によって起こるとした仮説である。
しかし脳内の病態が明らかにされていない以上、逆の病態が大うつ病性障害の根本原因と結論付けることは出来ず、あくまで仮説にとどまっている。
さらにこの仮説に対する反論としては、シナプス間隙のノルアドレナリンやセロトニンの低下がうつ病の原因であるとすれば、抗うつ薬は即効性があってしかるべきである。
うつの改善には最低2週間要することを考えると、この意見は一理あると言える。
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