僕は、本当にこの本に救われた。
大袈裟ではなく、文字通り、『命を救われた』。
他人の視線に怯える対人恐怖症。強迫観念や不安発作、不眠など、心身の不快や適応困難に悩む人は多い。
こころに潜む不安や葛藤を“異物”として排除するのではなく、「あるがまま」に受け入れ、「目的本位」の行動をとることによって、すこやかな自己実現をめざす森田療法は、神経症からの解放のみならず、日常人のメンタル・ヘルスの実践法として、有益なヒントを提供する。
新書本にありがちな平板な概説書かと思い大して期待せずに読み始めたが、さにあらず、筆者の魂のこもった壮絶な書だった。
筆者は、末期癌の病床で視力をも含む体の機能の過半を失いながら、自己の生きる意味を追求するため、口述筆記によって本書を執筆した。
たとえ不安や恐怖に押しつぶされそうになっても、たとえ絶対絶命の状況に置かれても、それを「あるがまま」に受け入れ、自己実現のために一歩でも踏み出していく、そうした森田療法の精神を本書の執筆それ自体により筆者は具現化して見せたのである。
本書の中で紹介される幾多のエピソードは、筆者の人生の記録そのものである。
数度の流産経験を経てやっと授かった我が子が、生後間もなくして死亡する。
その際、悲しみに満ち溢れつつ、筆者は赤ん坊の死顔を夢中でスケッチブックに描きとめた。
傍目には異常とも思えるこの筆者の行動もまた、筆者流に解釈した森田療法の実践であった。
これほど読み手の心を揺さぶる新書本を私は他に知らない。
魂の書である。
世界的に知られている森田療法は、神経症に伴う不安、恐れを、「あるがまま」に受け入れる事を説く。
しかし、表面的に受け取ってしまっては、真の「あるがまま」の意味は伝わりにくく、誤解の恐れもある。
筆者は、自身の体験や治療した患者の例を通じて、判りやすく、具体的に森田療法について解き明かしており、森田療法への格好の入門書となろう。
「あるがまま」を受け止めるという古くから有る精神科領域の「森田療法」の紹介である。
この「あるがまま」を受け止める、というのは言うは易く、行うは難しだ。
そこを、臨床経験豊富な精神科医が具体的に解きほぐして解説してくれる。
うつ病などには、今ではかなり良い薬が出ているが、この本により僕も何度か命を救われた。
ストレスの多い、現代人にとっては、日頃から「あるがまま」を「積極的に、肯定的に受け入れる方法」を実践することが、自分を守ることになる。
そんな方法を筆者が自らは死の床にいながらにして、生き残っている僕らに残してくれた現代人必読の一冊である。
森田療法 講談社現代新書 / 岩井寛 【新書】 |
ラベル:森田療法
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