分かってきたことは、うつ病の本質は絶望にあるのではないことである。
絶望は病気ゆえに感じる「症状」であって、症状である以上、医学的な治療が解決の切り札になる。
そしてまた、うつ病の治療態勢はここ10年で見違えるほど整備されてきているのだ。
もっとも信頼される名医が説く、なぜ「うつ」になるのか、どうすれば回復するか。
現役専門医による鬱病の解説書。
私はもう何年も前に患って、最近は病気だったときの記憶をあまり思い出せないのですが、本書は当時を思い出しながら、それでいてとっても楽しく読めました。
本書が楽しいのは、現役医師のホンネがそこかしこに漏れ出ているからです。
こういう広く一般に読まれる本を書く専門家は、あまりホンネを出さないものですが、この人は違います。
特定の薬に対して「私もこの二つの薬は好きである」なんて、思いっきり個人的なコメントをしている。
私の乏しい経験では、良い医師は個人的な感情を押し殺さない。
万能の医師ではなく欠点ある一人の人間として患者に対峙してくれる。
彼の個性をフックにして、患者である私は医師に人間的信頼を抱き、自分への信頼を回復していきました。
本書は最新の治療について非常にきちんと書かれています。
まず薬物療法についてしっかりと書かれてますから、患者は「自分が今どんな治療を受けているか」を理解する助けになるでしょう。
その次に通電療法。そして認知療法。
良いのは、精神分析など日本ではほとんど実施されていない・効果も薄い・高価で時間がかかる治療法についてはムダにページを割いていないこと。
精神療法は現在の日本では現実的な選択肢ではありませんが、いたずらに投薬を「薬漬け」と批判する人たちが、さも投薬より効果があるみたいな幻想を振りまいています。
本書はそうした幻想に与しません。
あくまでも現場レベルでの最善を紹介しています。
私は本書の姿勢に強く共感し、支持します。
先に同じ講談社現代新書の笠原嘉『軽症うつ病』を読み、その文章の読みやすさ、内容の分かりやすさに感動したが、同じ新書で本書が出た事を知り、笠原版の続編を読むようなつもりでさっそく読み始めると、これもまた驚くほどの読みやすさ。
かといって内容が薄いわけではない。
勿論、初めて読む人のために前半の症例紹介などでは笠原版と重なる記述もあるが、著者が異なるとやはり視点が少し異なり、またズンズン読んでしまえる。
本書の最大の特色はタイトルが示す通り、治療法に比較的重点を置いて書かれていることだ。
特に4章「うつ病の治療メニュー」に含まれる「主な抗うつ薬」(pp.126~132)や「気分安定薬の解説」(pp.137~140)は代表的な薬の名称と共に特徴や副作用も述べられていて、現在通院服薬中の患者さんにとっては非常に参考になるだろう。
又、個人的にはpp.145~149に解説されている「通電療法(=電気ショック療法)」なるものに興味がわいて思わず自分も受けてみたくなった。
筆者の野村氏も、同僚に「自分がもしうつ病になったら、真っ先に通電療法を受けさせてくれ」と頼んでいるらしい。
ちなみに筆者の「野村総一郎」さんは、私の長女の同級生のお父さんでもある。
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