■■■■■■ うつ病の治療(1) ■■■■■■
●うつ病の治療
1950年代に抗うつ薬が登場するまでは、電気けいれん療法(1938年創始)、ロボトミー(1935年創始)しか効果の証明された治療法が無かったが、その後抗うつ薬が登場し薬物治療が発達した。
現在、うつ病治療としては(1)休養 (2)薬物療法 (3)精神療法 (4)環境調整 (5)特殊療法(ECTなど)などが組み合わせて行われる。
中でも薬物療法と休養が原則とされる。
基本的に現在はまずうつが病気であることを本人・家族が納得し、「無理をせず、養生して、(原則として)薬を飲んで、回復を待つ」ことである。
自殺の危険性が高い症例では、入院治療が必要となる。
特に、「死にたい」とか「消えてしまいたい」「自分は居ない方がいい」などの希死念慮や自己否定的な内容を口にする場合には、自殺の危険性があり、すみやかな受診が必要である。
●休養
休養がうつ病の特に病初期(急性期)には重要であり、日常生活に著しい障害が生じている場合には、仕事を休んだり、主婦であれば家事を誰かに手伝ってもらうなど、社会的役割を免除してもらい、休養する必要がある。
そのため、自殺の危険は少ない場合でも、入院の適応となる場合がある。
日常生活における障害が軽い軽症例では、これまで通りの生活を続けながら、薬物治療などを行うこともある。
休養、薬物療法、精神療法は治療の3本柱であり、身体疾患と基本的に同じである。
●心理教育(うつ病の対応の原則)
病初期(急性期)の心理教育の原則として「笠原の小精神療法」が有名である。
1)うつ病は病気であり、単に怠けではないことを認識してもらう
2)できる限り休養をとることが必要
3)抗うつ薬を十分量、十分な期間投与し、欠かさず服用するよう指導する
4)治療にはおよそ 3 ヶ月かかることを告げる
5)一進一退があることを納得してもらう
6)自殺しないように誓約してもらう
7)治療が終了するまで重大な決定は延期する
内因性うつ病の症状は、“気の持ちよう” “努力”などで変えられるものではない。
変えられないものを、変えようと無理をすれば、症状を悪化させる。
むしろ、変えようとせず、憂うつな気分に逆らわず、十分な休養を取りながら、回復を待つべきである。
うつ病の症状の一つに、将来を悲観してしまうことがある。
病気のため、もう治らないとしか考えられなくなることも多い。
しかし、うつ病はいかに重症でもいつかは改善するものである。
いつかは良くなるという希望を持つことが重要である。
またあせって人生の決断を下さない方がよい。
例えば転職・退職、離婚などの重要な決断はなるべく後回しにする。
一般にうつ病のため判断能力は低下していることが多く、適切な判断が下せないことが多い。
治療の前提として、治療の基本的原則について、しっかりと医師が説明を行い、患者が納得して治療に取り組むことが必要である。
また、投薬についても、医師がしっかりと説明する必要がある。
患者も、分からないことは質問していくことが必要である。
こうした医師と患者のコミュニケーションが治療の成功には不可欠である。
また、うつ病の一人一人の患者においては、信頼できる主治医をもち、自分に合ったアドバイスを主治医にもらうことが最も重要である。
●家族の対応
家族など周囲の人たちも、長い目でうつ病患者を見守ることが求められる。
「頑張れ」や「さぼるな」という言葉は、患者自身の力ではどうしようもない今の状態を、今すぐに自分の力で変えるようにと、無理を求めるものとなる。
そして、このような言葉は、患者を追いつめ、最悪の場合、自殺の誘因とならないとも限らない。
患者のみならず、周囲の人々も、患者がうつ病であり、患者自身の力では今の状態から抜け出せないことを受け入れ、長い目で回復を信じ、あせらないことが必要である。
「気の持ちようではないか」「旅行にでも行って気分転換してはどうか」といった言葉も、適切ではない。
うつ病でなくとも、嫌なことが起きれば、嫌な気分になるし、そういった一過性の軽い抑うつ気分は多くの人が経験する。
これらの言葉は、うつ病もそれと同じように対処すれば良いものと見ている。
しかし、長期間に及ぶような酷いうつ状態(つまりうつ病)の場合には、適切な治療なしには気の持ちようを正すこともできず、旅行に行く気力も出ないため、これらの言葉はかえって患者を苦しめる。
患者がこれらのアドバイスを受け入れられるほど回復したかどうかの見極めが大切である。
●環境調整
とくに心因が強く影響していると考えられるうつ病の場合、環境のストレスが大きい場合は調整可能かどうかを検討し、対応する。
心理的葛藤に起因すると思われるうつ病では、原因となった葛藤の解決や、葛藤状況から離れることなどの原因に対する対応が必要である。
またうつ病の回復期・リハビリ期においては、段階的復職などの配慮が必要である。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、リワーク支援を実施している。
ストレスへの対処法(認知行動療法の一部)、リハビリ出勤、会社との調整など実施している。