2014年06月13日

うつ病に対する認知行動療法(2)

●うつ病に対する認知行動療法

認知行動療法(にんちこうどうりょうほう、cognitive behavioral therapy、CBT)は、行動療法(学習理論に基づく行動変容法・理論の総称)と認知療法(認知や感情に焦点を当てる心理療法)との総称である。



●うつ病に対する認知行動療法の概要

認知行動療法とは?

認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法(心理療法)の一種である。

考え方のバランスを取ってストレスに上手に対応できるこころの状態をつくっていく。

誤った認識・陥りがちな思考パターンの癖を、客観的でよりよい方向へと修正する。

鬱、PTSD、パニック障害、解離性障害、複雑性悲嘆、強迫神経症など、多種多様な精神的疾患で、その高い効果が報告されている。

自身で手引きを参考にしながら出来る、比較的、手軽な方法から、それが困難な場合には、専門の医師に治療してもらう方法まで、認知行動療法は、広義に活用されている。

ただし疾患の種類や症状の重さによっては、トラウマへの介入・想起により強い苦痛や葛藤を伴い、場合によっては悪化することもあるため、クライエントの状態を判断して治療することが重要である。



●うつ病の認知行動療法治療の進め方

治療の進め方としては、現在、医院ではクライエントに無理がないように時間をかけて、徐々に問題と向き合う方法が主に行われている。

1.患者を一人の人間として理解し、患者が直面している問題点を洗い出して治療方針を立てる

2.自動思考に焦点をあて認知の歪みを修正する

3.より心の奥底にあるスキーマに焦点を当てる

4.治療終結

こうしたことから認知行動療法とは、認知の歪みを客観的に正し、クライエントが自身で感情や考え方の安定したコントロールが出来るようにすることで、問題に囚われた精神状態から無事、脱却し、再び同じ心身状態に陥ることを防ぐ治療法といえる。



●うつ病の行動療法と認知療法

行動療法と認知療法とは切り離せないものと考えられており、今ではこの二つを合わせた「認知行動療法」と呼ばれるようになっている。

「認知行動療法」という呼び名が最初に現れたのは、ドナルド・マイケンバウムの著作のタイトルである。

行動療法では認知や感情も行動の一部であるという解釈があり、認知療法のアルバート・エリスやアーロン・ベックは積極的に行動療法的な技法を取り込んで発展させて行った。

そのため、次第にこの両者は統合あるいは折衷されていった。

それまでの行動療法が対症療法的で、個人の経験や葛藤を考慮していないために再発や別の症状が出るという批判も、認知や感情を重視するようになったためほぼ解消されたといえる。

「認知療法」、「行動療法」と分けて呼ぶ場合には「(ベックの)認知療法」と言った狭義の呼称であったり、系統的脱感作のような古典的技法を指しての「行動療法」であったりする。

なお海外では「行動認知療法(Behavioral and Cognitive Therapies)」と呼ばれることもある。

さらに近年は「マインドフルネス」と「アクセプタンス」を共通の治療要素とする第三世代の行動療法が展開されている。


認知行動療法のテクニックは、人それぞれが持つ認知構造やスキーマと呼ばれるものが、人生において出会ういろいろな状況に反応したり適応したりする方法を形づくるという想定の下にある。



●うつ病に対する認知行動療法の効果

イギリスやアメリカではうつ病と不安障害の治療ガイドラインで第一選択肢になっている。

薬物療法と効果は同等であり、効果の持続時間はそれ以上であることが承認されている。

多くの臨床研究によりうつ病と不安障害に対して効果が高いというエビデンスがある。



●うつ病に対する認知行動療法の効果に関する議論

認知行動療法(CBT)に関する概念や効果研究の方法について、諸問題が提起されています。


1. CBTの基礎概念では、マイナス思考がうつ病の原因であるとされています。

しかし、医学・精神医学の中では、症状が病気の原因になっているのはこれが 唯一の例です。 

また、「私はどうでもいい人間」や「私はだめな人間」のようなマイナス思考が、うつ病の根底にある憂うつ気分の二次的な反応という解釈もできます。

希望や支えを与えると患者は楽になりますが、うつ病そのものは治療されません。

また、うつ病の臨床試験の場合、プラセボ(薬理効果をもたらす成分が入っていない偽薬)の投与群でも、うつ症状がある程度改善することがよく知られています。

そのため、効果的な薬剤を服用している希望や期待によってマイナス思考が改善したと思われ、CBT効果と同じ現象ではないかと示唆されます。




2. CBTの効果研究の方法が、ダブルブラインド(二重盲検)でないことが問題とされています。

患者と治療者の両方が治療内容がCBTであることを明確に認識 している場合(ダブルブラインドでない)、それによってバイアス(希望による期待)が生じる。

そのため、明らかにCBTでない対象群より、よくなりたい患者の症状の方がある程度和らげられ、結果として「CBTがより効果的だ」という誤った結論になってしまいます。

また、研究の評価者は治療内容を認識していないが、患者と治療者の両者が認識しているシングルブラインド(単盲検)の効果研究方法は妥当性に欠けてしまいます。



2010年に行った過去の 研究をまとめた調査によると、治療内容を認識している研究とある程度しか認識していない研究を比較すると、患者や治療者が治療内容を認識すればするほど、 CBTが優位な結果となりました。

これは、バイアスが原因ではないかと強く示唆されています。


逆に、患者や治療者が治療内容を認識しなければしないほど、うつ病に対する効果がほとんどなくなります。




3. 軽症うつ病の患者が重症患者より多く、病気なのか、または性格やストレスによるうつ気分なのかが区別しにくくなります。

軽症うつの患者は希望や期待に作用されやすく、上記のように症状がある程度容易に和らげられます。

また、このような患者は重症のうつ病がはっきりしている患者と比べて効果研究に参加しやすく、客観的な結果が得られにくくなります。



結論:

1. CBTによって心理的な機能(主にマイナス思考による不快感)がある程度まで改善できる。

2. CBTはうつ病やその他精神科疾患の治療として、その効果が医学的に証明されていない。

その上、CBT効果研究のダブルブラインド(二重盲検性)を調査した研究によると、うつ病に対するCBTの効果は極めて低い。

3. CBTは、中途度より重いうつ病に対しては単独治療にすべきでない。

4.主に二重盲検効果研究の実施は不可能なため、CBTの効果研究は「根拠に基づいた医療」(Evidence-Based Medicine)とはいえず、これまでのデータは、「統制されていない研究結果」にすぎない。

5.重度の症状が有る場合は、苦痛を伴う事が少なからず有る事で、苦痛に耐えきれず中途で断念する人が少なからずいる。


なお、抗うつ薬の二重盲検試験にも、副作用の有無によって医師と被験者に抗うつ薬と偽薬のどちらを投与したか見破られるという問題がある。

また、医薬品の単盲検試験では被験者に割付群を知らせないが、心理療法のランダム化比較試験(RCT)における単盲検では効果の評価者に割付群を知らせないという違いがある。

心理療法のRCTの問題を克服する手法も開発されており、評価者がブラインド化された研究では効果量が50〜100%高く出ることもない。



以上


posted by ホーライ at 01:15| 北京 | 認知療法による治療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする