●不眠症の薬物療法(2)
●NICE診療ガイドライン
英国国立医療技術評価機構(NICE)の不眠症の診療ガイドラインでは、睡眠導入剤の利用は通常生活において重度の不眠のみに限り、かつ短期間に留めなければならないとしている。
ゾルピデム、ザレプロン、ゾピクロン、短期時間作用型ベンゾジアゼピンの比較評価については有効なデータがなく、最も安価な薬物を選択すべきとしている。
投与投与中の睡眠導入剤を切り替えるケースは、患者がその薬剤を直接原因とする副作用が発生した場合のみに限るべきだとしている。
これらの睡眠導入剤について効果を示さなかった患者については、いかなる他の薬剤も処方すべきではないとしている。
21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)において、睡眠の確保のために睡眠補助品やアルコールを用いることがある人の減少を目標としていたが全国平均が増加したという最終結果が報告されている。
2013年には、厚生労働省と日本睡眠学会によって、睡眠薬の適正な使用と休薬を見据えたガイドラインが公開されている。
●抗ヒスタミン薬
ドリエル(国外ではBenadryl)のような、抗ヒスタミン剤のジフェンヒドラミンは、処方箋の不要な睡眠補助薬が広く用いられている。
アメリカやカナダにおけるUnisomのような、抗ヒスタミン剤のドキシラミンも同様である。
これはアメリカで入手可能な一般医薬品の中では効果的な鎮静剤であり、いくつかの処方薬よりも鎮静作用がある。
日本にはジフェンヒドラミンの医薬品が存在し、添付文書には、連用せず2、3回までの使用にとどめる注意が書かれている。
ジフェンヒドラミンの鎮静作用に対する耐性は、非常に早く形成され、3日後にはもはや偽薬と同等の効果である。不
適切に用いられた場合、小さな精神依存につながることがある。
日本睡眠学会および厚労省科学斑は市販の睡眠薬を不眠症の治療の目的で長期に使用すべきではないと勧告している。
●ベンゾジアゼピン
不眠症のために最も一般的に処方される睡眠薬の種類はベンゾジアゼピン系である。
すべてのベンゾジアゼピンはGABAA受容体に対し非選択的に結合する。
しかし、特定のベンゾジアゼピンは、他のベンゾジアゼピンよりもGABAA受容体におけるα1サブユニットに対する作用が強い(例えば、トリアゾラムおよびテマゼパムはα1サブユニットに強い作用があり、アルプラゾラムやジアゼパムはα1サブユニットに対して強い作用がある)。
α1サブユニットは、鎮静、運動障害、呼吸抑制、健忘、運動失調、また行動の強化(薬物探索行動)と関連している。
α2サブユニットは、抗不安作用や脱抑制に関連している。
このため特定のベンゾジアゼピンは、他のものより不眠症の治療適している。
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬には、テマゼパム(英語版)、フルニトラゼパム(ロヒプノール、サイレース)、トリアゾラム(ハルシオン)、フルラゼパム](ダルメート)、ミダゾラム(ドルミカム)、ニトラゼパム(ベンザリン)、クアゼパム(ドラール)などがある。
これらの薬は耐性と身体依存を形成し、中止時にベンゾジアゼピン離脱症候群につながり、とりわけ長期間の定常的な使用後には顕著である。
ベンゾジアゼピンは無意識に誘導し、浅い睡眠を促し、深い睡眠に費やす時間を減少させるため、実際には睡眠を悪化させる。
他の問題としては、短時間作用型の睡眠補助薬を不眠症に定常的に使用していると、日中の反跳性不安を生じさせる。
ベンゾジアゼピンは睡眠の開始を助け、睡眠時間を増やすが、深い睡眠を減らし浅い睡眠を増やす。
不眠症におけるベンゾジアゼピンの利益に関する証拠は少なく、重大な害についての証拠がありながら、処方は増加し続けてきた。
多くの人にとって、不眠症に対するベンゾジアゼピンの長期的な使用は不適切であると認識されており、ベンゾジアゼピンの長期的影響について有害な副作用の懸念があるため、徐々に減薬し断薬することが推奨される。
日本睡眠学会および厚労省科学斑のガイドラインは、常⽤量の睡眠薬で効果が不⼗分な場合に、睡眠薬の多剤併⽤がより有効であるという証拠がなく、副作用の危険性を低減するためにも、多剤併⽤はできるだけ避け、特に、3種類以上のベンゾジアゼピン系ないし非ベンゾジアゼピン系の併用は避けなければならないとし、そして臨床常⽤量の使用でも増量は危険性と利益を慎重に考慮し、長期連用による二次性不眠症の可能性も検討し、睡眠衛生や認知行動療法といった代替の治療法も検討すべきであるとしている。