うつ病を治すための本★『うつと気分障害』
自殺者が年間三万人を超え、うつの患者は百万人を突破。
サラリーマンの六割が強いストレスを感じ、潜在患者は三百万〜六百万人と推定される。
だが実は、うつと思われていた人の約半分が躁うつだとわかってきた。
今、うつと躁うつを含めた「気分障害」が激増しているのだ。
対人トラブル、異性問題、失職、借金、浪費、飲酒、DV......。
病気と知らず失敗を繰り返す人も多い。
気分の浮き沈みが激しい人、テンションが高く「絶好調」な人も危ないのだ。
本書では、うつと気分障害の基礎知識から最先端の研究成果、実際に役立つ予防や治療・克服法まで、わかりやすく解説。
うつに関する新書は数多あり、まさに玉石混淆である。
中には「駄本」というべきものも少なからずあるのだが、逆に名著といえるのは岩波明著『うつ病・まだ語られていない真実』や笠原嘉著『軽症うつ病』などであろう。
そして、本書もこれらと肩を並べるきわめて質の高い著作であることは間違いない。
著者は臨床医であり、研究者でもある。うつと気分障害、そして双極性障害について丁寧に解説していくが、その一言一言が、長年、患者と向き合い、治療を行ってきた医師としての重みがある。
最新の病理学、脳科学の知見を余すところなく用い、小説家として横溝賞まで受賞する筆力で読者に語りかける。
発病のメカニズムと脳内物質、治療薬の作用と副作用、一般に「新型うつ」と呼ばれる「非定型うつ」についてもふれていて、この一冊にうつに関して一般に知り得ることがほぼ詰め込まれている。
ちりばめられたコラムは、「あの人も」と思われるような有名人の闘病の様子が紹介されている。
中にはヘミングウェイや有島武郎のような悲劇的な例もあるが、ウォルト・ディズニー、ゲーテ、北杜夫、曽野綾子などの闘病の様子を紹介していて、同じ病に苦しむ人たちに共感をもたらすことだろう。
第7章の記述やこうしたコラムの最後に、マックス・ウェーバーの寛解への課程を紹介するあたりに、一人の医師としての、ヒューマニズムが現れているようで、さわやかな印象さえ与えられた。