2014年06月12日

抗うつ薬によるうつ病の治療(3)

●●●抗うつ薬によるうつ病の治療(3)


精神疾患治療薬(7)「抗うつ薬(2)」三環系抗うつ薬


三環系抗うつ薬(さんかんけいこううつやく、英: Tricyclic Antidepressants, TCA)は、抗うつ薬の種類の一つ。

名称は、構造中にベンゼン環を両端に含む環状構造が3つあることを共通に特徴とする事に由来する。

第1世代、第2世代抗うつ薬とも分類される。

三環系抗うつ薬はノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質に関与する神経細胞受容体に作用し、遊離するノルアドレナリン、セロトニンを増やす(正確には神経細胞による再取り込みを阻害する)働きをする。

また、臨床効果が現れるのに飲み始めてから1〜2週間はかかるため、そのことに留意して服用する必要がある。

一般に、選択的作用が比較的低い。

副作用(主に口渇、便秘、排尿困難など)を伴う場合がある。

また、この排尿困難の副作用を逆手に取り、夜尿症の治療に三環系抗うつ薬を用いるケースもある。

他の抗うつ薬の分類として、四環系抗うつ薬(第2世代)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI、第3世代)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI、第4世代)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬 (NaSSA) などがある。

これらは副作用は少ないものの、薬効は低くなる傾向にある(セロトニン選択性が高くなるかわりに抗ヒスタミン作用が低下し、不眠や鎮静への作用が減るなど)。

近年、これら以外の薬理作用を示す抗うつ剤(トリアゾロピリジン系など)も登場している。

緊急入院を要する重症例ではTCAが有効性に勝るのではないかと言う専門家の意見がある



●第1世代

塩酸アミトリプチリン (トリプタノール、ラントロン)

塩酸イミプラミン (イミドール、トフラニール)

塩酸クロミプラミン (アナフラニール)

マレイン酸トリミプラミン (スルモンチール)

塩酸ノルトリプチリン(ノリトレン)



●第2世代

アモキサピン (アモキサン)

塩酸ドスレピン (プロチアデン)

塩酸ロフェプラミン (アンプリット)



●アミトリプチリン

アミトリプチリン(Amitriptyline)は、抗うつ薬、睡眠導入剤として用いられる有機化合物の一種。

分子式は C20H23N。水、エタノール、酢酸に溶けやすくジエチルエーテルに溶けにくい。苦く麻痺性がある。

脳内においてノルエピネフリン及びセロトニンの再取り込みを抑制し、シナプス領域のモノアミンが増量することにより、抗うつ作用を示す。

三環系抗うつ薬の一種で、アミトリプチリン塩酸塩は、日医工よりトリプタノールR、山之内製薬(現在は、藤沢薬品工業を吸収合併したためアステラス製薬に改称)からラントロンR、沢井製薬からノーマルンRという商品名で発売されている。うつ病・うつ状態、不眠症、夜尿症の治療薬に使用される。適応症ではないが線維筋痛症にも用いられることがある。

トリプタノールについては後発医薬品が発売されているが、ラントロンおよびノーマルンについては、トリプタノールとは一部成分が異なることから、先発薬扱いとされており、この2社(アステラスのラントロン、沢井のノーマルン)に関する後発薬は特許期限が到達していないことから発売されていない。


抗コリン作用が強く、口渇・便秘・めまい・眠気・排尿障害などの三環系抗うつ薬にありがちな副作用が強く現れやすい。

ただ、効果も高いとされているので、他の抗うつ薬で思わしい効果が出ない場合に処方されやすい。

獣医学領域ではイヌの分離不安症の治療に使用される。

アミトリプチリンは、うつ病・不安障害・注意欠陥多動性障害・偏頭痛の予防・摂食障害・双極性障害・ポスト神経痛・不眠症などに用いられる。

アミトリプチリンの断薬は徐々に行う必要があり、それは全体で3ヶ月を超えてはいけない。(It should be gradually withdrawn at the end of the course, which overall should be of no more than three months)

ランダム化比較試験において、有痛性糖尿病性神経障害に対し、アミトリプチリン、デュロキセチンおよびプレガバリンの三者は同等の効果がみられた。

抗うつ作用に関する詳細な作用機序は明らかにされていないが、脳内におけるノルアドレナリンおよびセロトニン再取り込みを抑制する結果、シナプス領域にこれらモノアミン量が増量することにより、抗うつ作用を示すと考えられている。

アミトリプチリンは、ラット脳においてノルアドレナリンの再取り込み、およびマウス脳切片でのセロトニンの再取り込みを抑制することが確認されている。

また、レセルピン及びテトラベナジンに対する拮抗作用があり、アミトリプチリンはマウスにおいて、レセルピンによる体温降下、およびテトラベナジンによる鎮静作用を抑制する。

加えて、麻酔イヌにおけるノルアドレナリンの昇圧反応を、アミトリプチリンは増強する



●イミプラミン

イミプラミン (imipramine) は、抗うつ薬として用いられる有機化合物の一種。分子式は C19H24N2。

塩酸塩は無臭で水に溶けやすい。第1世代の三環系抗うつ薬として知られ、うつ病、うつ状態、夜尿症の治療に用いられる。

イミプラミン塩酸塩は、アルフレッサファーマからトフラニール、田辺三菱製薬からイミドールなどの商品名で販売されている。

脳内神経末端へのノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、セロトニンの再取り込みを阻害する。

CYP1A2による脱メチル化を受け、活性代謝物のデシプラミンとなる。




●クロミプラミン

クロミプラミン(clomipramine)は、抗うつ薬として用いられる有機化合物の一種。

分子式は C19H23ClN2。

酢酸に極めて溶けやすく、酢酸エチル、ジエチルエーテルに溶けにくい。

塩酸塩は白色または微黄色結晶。融点192?196℃。

1960年代にスイスのガイギー社(現・ノバルティス)によって開発された。

脳内のセロトニンおよびノルアドレナリンの神経終末への取り込みを阻害する。

三環系抗うつ薬の一種で、アルフレッサファーマから塩酸塩が「アナフラニール」という商品名で発売されている。

うつ病・うつ状態、強迫性障害、夜尿症、不眠症の治療薬に使用される。

獣医学領域ではイヌの分離不安症の治療薬として使用される。




●ノルトリプチリン

ノルトリプチリン (nortriptyline) は、抗うつ薬として用いられる有機化合物の一種。

分子式は C19H21N。

CAS登録番号 は [72-69-5]。

無臭で水に不溶。第1世代の三環系抗うつ薬として知られ、うつ病、うつ状態などの治療に用いられる。

脳内神経末端へのノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、セロトニンの再取り込みを阻害する。

塩酸塩が、大日本住友製薬からノリトレンという商品名で販売されている。

作用機序として、ノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害し、シナプス間隙のノルアドレナリン量を増加させることにより、抗うつ作用を示すと考えられている。

ラット脳シナプトゾームにおいては、ノルアドレナリン、セロトニン、ドパミンいずれの再取り込みも阻害するが、特にノルアドレナリンに対して強い阻害作用を示す (in vitro)。

また、レセルピンによる体温下降作用に対し抑制作用を示す (マウス、腹腔内投与)。

二重盲検比較試験および一般臨床試験における有効性についての評価症例数は508例であり、 精神科領域におけるうつ病およびうつ状態疾患に対し、有効以上が52% (262/508)、やや有効以上が73% (372/508) であった。




●アモキサピン

アモキサピン (Amoxapine) は、抗うつ薬として用いられる有機化合物の一種。

分子式は C17H16ClN3O、CAS登録番号は [14028-44-5] で、白色または淡黄白色の結晶。無味で、無臭または特異臭。水にはほとんど不溶。

日本ではワイス(現ファイザー)製造販売元、武田薬品販売でアモキサンの商品名で唯一販売されている。

特許は切れているが、ジェネリックは発売されていない。

脳内神経末端へのノルアドレナリン、セロトニンの再取り込み阻害作用を有すが、活性代謝物である7-hydroxy体は強力なドパミン2受容体遮断作用をもつ。

この代謝物の作用により、抗精神病薬に類似した錐体外路症状(EPS)や悪性症候群が現れることがある。

第二世代の三環系抗うつ薬として知られ、抗コリン作用が軽減されている。

うつ病、抑うつ状態、パニック障害、過食症、線維筋痛症などの治療に用いられる。

従来の三環系抗うつ剤に対し、妄想性うつ病に効果発現が早いとされるが、一般的に効果の発現には2~3週間かかるとされる。

抗うつ作用はSSRIやSNRIと比較して強力とされるが、すぐに効果が現れないからといって服用を中止することなく、服用を継続したうえで治療効果について医師と相談していくべきである。また突然の服用中止は重大な副作用を誘発する危険性があるため、薬剤師による服薬指導を遵守すべきである。



以上

posted by ホーライ at 01:32| 北京 | うつ病の治療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月10日

うつ病の治療の概要

うつ病を治す方法、鬱病を治す方法 


うつ病は、この記事では大うつ病として知られる精神疾患を指す。

患者は、通常外来患者として評価・管理し、患者が自分自身や他人に危険をもたらすと考えられる場合のみ精神福祉部門に入院させる。

もっともうつ病で共通する治療は、休養・心理療法・薬物療法・電気ショック療法(重度の場合)である。




●うつ病の治療の概要

抗うつ薬が普及する前、アメリカ国立精神衛生研究所(英語版)(NIMH)は、うつ病は自然回復し、再発は滅多にない、と公式に述べていた。

1964年、NIMHのジョナサン・コール(Jonathan Cole)は「うつ病は、全体的に、治療の有無にかかわらず、最終的には回復する予後が最良な精神状態の一つです。ほとんどのうつ病は治療しなくても長期的には回復します」と述べている。

また、NIMHの専門家たちは、抗うつ薬が回復までの時間短縮に役立つ可能性はあっても、長期回復率の上昇には役立たないと考えている。

その理由について、1974年、NIMHのうつ病部門長であるディーン・シュイラー(Dean Schuyler)は、ほとんどのうつ病は「特別な治療をしなくても事実上完治するという経過をたどります」と説明している。

数ヶ月以内の自然回復率が50%を越えるため、各種治療法の有効性の判断は難しい。




●うつ病の薬物療法

抗うつ薬

1999年のガイドラインでは、最も効果のある薬物治療を見つけるため、薬の種類と量は頻繁に調整すべきであり、違った抗うつ薬の組み合わせ、別種の薬物を試すことが求められ、最初の薬物への反応率は50%程度と低い、とされる。

抗うつ薬は統計的にプラセボよりも優れているが、しかし全体的な効果は低から中程度である。

多くの場合、国立健康臨床研究所による臨床有意基準を満たせない。

とりわけ、中程度のうつには効用は非常に小さいが、非常に深刻なうつの場合臨床的有意性は上がっている。





●うつ病の睡眠衛生

うつ病は一般的に睡眠不足(入眠困難、早朝覚醒、日中の一般的な倦怠感)に関連付けられている。

抑うつと睡眠不足の2つの相互作用により症状を悪化させる。

良い睡眠衛生によってこの悪循環を断ち切ることが重要な助けとなる。

それには標準就寝時間の確保、カフェイン等の覚醒物質を絶つ、睡眠時無呼吸のような外乱要素の治療などがある。

皮肉にも、睡眠短縮(断眠療法など)はうつ病の一時的な治療である。

断眠療法は効果が持続しにくく、その場合、薬物療法や光療法を併用する。



●うつ病の高照度光照射療法

全米精神科医協会による高照度光照射療法についてのメタアナリシス調査では、季節性情動障害と非季節性情動障害の両方においてプラセボよりも効果が確認され、効果は標準の抗うつ薬治療と類似であった。

非季節性情動障害では、標準の抗うつ薬治療に追加で光療法を行うことは効果的でなかった(not effective.)



●うつ病の鍼治療

2004年のコクランレビューでは、低い品質のエビデンスベースだが、鍼治療がうつ病の治療に効果があるかどうかのエビデンスはinsufficientと結論付けている。

臨床試験では、鍼灸の効果はアミトリプチリンと同等の効果が示されている。

加えて、とりわけ電気鍼では更に効果があり、うつ病患者の 3-methyl-4-hydroxy-phenylglycol (中央神経伝達物質ノルエピネフリンの主な代謝物) の減少をもたらす。

一方で、デキサメタゾン抑制試験では、アミトリプチリンはその抑制では更に効果があった。

鍼は体内のエンドルフィン生産レベルを引き上げることが証明されている。




●うつ病の冷水治療

Nikolai Shevchukによる研究では、冷たいシャワーを浴びることはうつの治療を助ける効果があると主張している。

氏は冷たいシャワーは脳の主要なノルエピネフリン元である locus ceruleus や blue spot を刺激するという生物学的説を主張している。

またβ-エンドルフィンのレベルに影響するとしている。



●うつ病の治療に使われる漢方薬

漢方薬では、柴胡加竜骨牡蛎湯・半夏厚朴湯・加味帰脾湯(焦燥感の強い場合は悪化の恐れあり注意)・加味逍遙散が主に用いられる。

治療有効例では約2週間ほどで効果を示すことが多いが、効果のない場合でも4-6週間の経過を見た方がよい場合もある。

西洋薬から漢方薬への切り替えは困難なことが多く、少なくとも急激な断薬はしてはならない。

エビデンスレベルは高くない。



●うつ病に対するトリプトファン

アミノ酸であるトリプトファンは、セロトニン・メラトニンといったモノアミン神経伝達物質などの前駆体として重要である。

コクラン共同計画のメタアナリシスではトリプトファンについての108の臨床試験のうち2つの試験しか十分な精度を有していないことを明らかにした。

その結果、トリプトファンの十分な効果の証拠が認められないのでうつ病治療に推奨できないと結論付けた。

米国ではトリプトファンを含むサプリメントは販売禁止である。

posted by ホーライ at 00:16| 北京 | うつ病の治療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月05日

精神疾患治療薬(6)「抗うつ薬(1)」

●●●抗うつ薬によるうつ病の治療(1)

抗うつ薬(こううつやく、antidepressant)とは、典型的には、抑うつ気分の持続や希死念慮を特徴とするうつ病のような気分障害に用いられる精神科の薬である。

不安障害のうち全般性不安障害(GAD)やパニック障害、強迫性障害にも処方される。


投薬による結果がよくないため非推奨であるものに、摂食障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)がある。


添付文書にて適応が認められていない慢性痛、月経困難症などの適用外用途への処方が行われる場合がある。

ほかにADHD、薬物乱用による抑うつ、いびき、偏頭痛の場合もある。

適用外用途の処方には議論がある。

場合によっては、アメリカでは司法省による制裁が行われている。



多くの抗うつ薬は、効果の発現が2〜6週間遅れるが、効果はしばしば1週間後に見られる。

しかしながら投与直後から、自殺の傾向を高める賦活症候群の危険性がある。

日本でも添付文書にて、24歳以下で自殺念慮や自殺企図の危険性を増加させることを注意喚起している。



抗うつ薬の有効性が議論されており、現在では軽症のうつ病に対しては、必ずしも薬剤の投与は一次選択にはなっていない。

また使用にあたっても1種類の抗うつ薬の使用が原則とされる。

2010年には、精神科領域の4学会により、医師に対して不適切な多剤大量処方に対する注意喚起がなされている。



抗うつ薬の使用は、口渇といった軽いものから、肥満や性機能障害など様々な#副作用が併存する可能性がある。

2型糖尿病の危険性を増加させる。

さらに他者に暴力を加える危険性は抗うつ薬全体で8.4倍に増加させるが、薬剤により2.8倍から10.9倍までのばらつきがある。



急に服薬を中止した場合、ベンゾジアゼピン離脱症状に酷似した離脱症状を生じさせる可能性がある。

離脱症状は、少なくとも2〜3週間後の再発とは異なり、数時間程度で発生し、多くは軽度で1〜2週間でおさまる。

離脱症状の高い出現率を持つ薬剤、パロキセチン(パキシル)で66%やセルトラリン(ゾロフト)で60%がある。


製薬会社は、特許対策のために分子構造を修正し似たような医薬品設計を行っていたが、2009年にはグラクソスミスクラインが神経科学分野での採算の悪さを理由に研究を閉鎖した。

その後、大手製薬会社の似たような傾向が続いた。



●主な抗うつ薬

*選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

第三世代の抗うつ薬と呼ばれるものであり、フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)、パロキセチン(パキシル)セルトラリン(ジェイゾロフト)、シタロプラム(日本未発売)、エスシタロプラム(レクサプロ)が知られている。

三環系抗うつ薬(TCA)より副作用が若干少ないとされる。

急に服薬をやめるとSSRI離脱症候群が発現する恐れがある。

強迫性障害、社交不安障害、パニック障害に適応がある。

躁うつ病には禁忌である。中等度から重症の大うつ病では第一選択となる。

効果発現に2週間程度必要である。

投与初期(1?2週間程度)は悪心、嘔吐、不安、焦燥、不眠といった症状が出現することがあるが継続投与で軽快、消失する。

セロトニン受容体に対する急性刺激と考えられている。

少量ではセロトニン選択性であるが、高用量となるとノルアドレナリンの再取り込みも阻害するようになる。




*セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)

第四世代の抗うつ薬と言われるもので、ミルナシプラン(トレドミン)、ヴェンラファキシン(エフェクサー)(日本では開発中止)、デュロキセチン(サインバルタ)、ネファゾドン(サーゾーン)が含まれる。

SSRIよりも意欲を高めるといった効果が期待されている。

TCAのイミプラミンに近い作用となるがセロトニンとノルアドレナリン以外の受容体と相互作用をしないため副作用は非常に少ない。

頭痛、口渇、排尿障害といった副作用は報告されている。




*三環系抗うつ薬(TCA)

もっとも古い抗うつ薬で1950年代に登場した。

セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みの阻害が抗うつ作用にかかわると考えられている。

第1世代としては塩酸アミトリプチリン (トリプタノール、ラントロン)、塩酸イミプラミン (イミドール、トフラニール)、塩酸クロミプラミン (アナフラニール)、マレイン酸トリミプラミン (スルモンチール)、塩酸ノルトリプチリン(ノリトレン)。

第2世代としてはアモキサピン (アモキサン)、塩酸ドスレピン (プロチアデン)、塩酸ロフェプラミン (アンプリット)が知られている。

第3世代としての選択的セロトニン再取り込み阻害薬が登場してからは軽症、中等症のうつ病の第一選択からは外れたが2008年現在も使われている薬である。

その理由としては抗コリン作用をはじめとした多くの副作用が存在するがうつ病の改善率が70?80%と非常に高いことが理由にあげられる。

TCAの抗うつ作用はほとんど差がないと言われているが、患者によって特異的に有効なTCAが存在するのも事実である。

抗コリン作用が軽快している第二世代の薬物から使用し、副作用に合わせて変えていくのが一般的である。

特徴としては三級アミンは二級アミンと比べると、鎮静作用、抗コリン作用が強く、起立性低血圧も起こしやすい。

鎮静と体重増加の作用はヒスタミンH1受容体に対する親和性と相関している。

起立性低血圧はアドレナリンα1受容体との親和性に相関しているといったところである。

またTCAは内服中断後、1週間は体内にとどまると考えられている。

危険な副作用としてはキニジン様作用といわれる心臓障害がある。

緊急入院を要する重症例ではTCAが有効性に勝るのではないかと言う専門家の意見がある。


・アミトリプチリン (トリプタノール、ラントロン)抗コリン作用、鎮静作用が最も強いTCAである。

若年者で入眠障害がある患者で好まれる傾向がある。

就寝前に多く飲ませることが多い。


・イミプラミン (イミドール、トフラニール)

最初に作られたTCAである。

アミトリプチリン よりも抗コリン作用、鎮静作用が弱いがノルトリプチリンよりは強い。

起立性低血圧も比較的少ない。

パニック障害に効果があることもある。


・クロミプラミン (アナフラニール)

セロトニンの再取り込み阻害作用が強い。

痙攣がおこる頻度が他のTCAよりも強いため、抗けいれん作用の強い抗不安薬を併用することが多い。

注射薬があるため、うつ病による不穏、焦燥に対して3時間程度で25mgを点滴静注することもある。


・ノルトリプチリン(ノリトレン)

セロトニンよりもノルアドレナリンの再取り込みを強く抑制する。

焦燥感を起こすことが少ない。有効治療量の幅が狭く処方が難しい。


・アモキサピン (アモキサン)

第二世代のTCAであり、副作用、特に抗コリン作用が軽減されている。

他のTCAよりも効果発現が早いといわれている。



*四環系抗うつ薬

ノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害し、セロトニンの再取り込みは阻害しない。

抗コリン作用はTCAよりも軽減されている傾向があるが、痙攣を起こしやすく、抗けいれん作用の強い抗不安薬(ジアゼパムやニトラゼパム)を併用することが多い。

塩酸マプロチリン(ルジオミール)、塩酸ミアンセリン(テトラミド)、マレイン酸セチプチリン(テシプール)が有名である。


・ミアンセリン(テトラミド)

α2受容体を遮断することでノルアドレナリンの放出を促進する。

抗ヒスタミン作用が強い薬物である。

心毒性がないため非常に使いやすい抗うつ薬である。

呼吸抑制と鎮静という副作用がある。

SSRIとの併用による増強効果が報告されている数少ない薬物である。


・セチプチリン(テシプール)

ミアンセリンを改良した薬物。

中枢性セロトニン作用をもつ。

鎮静の副作用はまれ。


・トリアゾロピリジン系抗うつ薬(SARI)

塩酸トラゾドン(商品名レスリン、デジレル)が有名である。

5-HTの取り込みを阻害する薬物である。


・モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害薬)

三環系抗うつ薬とほぼ同時期に抗うつ薬として使われ始めたが副作用が強かったため扱いにくく、現在は抗うつ薬としてはほとんど使われない。

パーキンソン病治療薬として専ら用いられている。



・ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)

NaSSAはNoradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressantの略。

2009年9月7日から使用が開始された。

これまで日本にはなかった作用機序の薬で、抗うつ薬分野での新規作用機序の新薬は10年ぶりとなる。

これまでのようにシナプスにおける神経伝達物質の再取り込みを阻害して濃度を上げるのではなく、セロトニン、ノルアドレナリンの分泌量そのものを増やす作用がある。

すなわち、α2ヘテロ受容体とα2受容体をふさぎ、セロトニンやノルアドレナリンが出ていないと錯覚させ、分泌を促す。

また、5-HT1受容体にセロトニンが結びつきやすくするために、5-HT1以外のセロトニン受容体をふさぐ。

・ミルタザピン - 2009年9月7日に国内での処方が解禁された。

開発元のN.V.オルガノンと統合したシェリング・プラウ(現在は合併してMSD)からレメロン、Meiji Seika ファルマからリフレックスとして発売されている。

2009年9月現在、90カ国で使用されている。

うつ病患者を対象としたミルタザビンの日本での臨床試験(プラセボ対照比較試験)では、投与1週目から有意に高い改善効果が示されており、長期投与試験では、52週まで抗うつ効果が維持されることが確認されている。

こうした試験結果から、従来薬に比べて、効果発現までの時間が短く、持続的な効果が得られる抗うつ薬として期待されている。

ただし国内の臨床試験で、82.7%に何らかの副作用が認められたことに留意する必要がある。

高頻度に認められたのは、傾眠(50%)、口渇(20.6%)、倦怠感(15.2%)、便秘(12.7%)、アラニン・アミノトランスフェラーゼ増加(12.4%)などであり、重大な副作用としては、セロトニン症候群、無顆粒球症、好中球減少症、痙攣、肝機能障害、黄疸、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)が報告されている。



*ノルアドレナリン・ドパミン再取り込み阻害薬(NDRI)

日本国内においては未承認である。

塩酸ブプロピオン(商品名ウェルブトリン)が知られている。




*選択的セロトニン再取り込み促進薬(SSRE)

日本国内においては未承認である。

チアネプチン(en:Tianeptine)が知られている。


(続く)

ラベル:抗うつ薬
posted by ホーライ at 03:39| 北京 | うつ病の治療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月30日

うつ病の治療(5)

■■■■■■ うつ病の治療(5)  ■■■■■■


●日本におけるうつ病治療の現状


日本における現在のうつ病治療の中心は、薬物療法である。

日本うつ病学会では、厚生労働省からの依頼により、抗うつ薬の副作用をはじめとする薬物療法に関する諸問題を専門家の立場から検討し、適正な抗うつ薬使用法を提言するため、学会内に「抗うつ薬の適正使用に関する委員会」を2009年に設立している。


比較的最近、欧米を中心に気分障害に対する精神療法(認知行動療法、対人関係療法、問題解決療法等)や家族心理介入の有効性についてのエビデンスが次々と発表されるようになっており、日本でもデータの蓄積と薬物療法の限界が強調される傾向とがあいまって、必要性が見直されており、2010年の日本うつ病学会の提言では「薬物療法などの生物学的治療法と、精神療法などの心理学的治療法は車の両輪であり、両者がそろって初めて最適な治療となることは論を俟たない」と述べられている。

また、2012年の日本うつ病学会のガイドラインでも「認知行動療法あるいは対人関係療法と薬物療法を併用した場合は薬物療法単独に比べて再発予防効果が高いことが立証されている」と述べている。

また、不安障害、パーソナリティ障害の合併例では薬物療法に加えて精神療法の併用が勧められる。



上記提言によると、日本で心理療法が十分に行われていない理由としては、

1.認知行動療法ができる心理専門職の不足

2.患者数の著しい増加により、一人の患者に十分な時間がかけにくい

3.薬物療法が進歩した結果、患者・医師双方にとって複雑、時に難解で時間のかかる精神療法を行わなくても、薬の服用のみで十分という風潮が生じている

4.薬物療法に比べて、精神療法の有効性についてのデータが相対的に少なく、積極的な精神療法への動機付けが乏しい


などが挙げられ、その対策として、人材不足の解消、心理職の国家資格化、保険診療化などを提唱している。





●うつ病の予後

大うつ病は、治療の有無に関わらず時間が解決することが多い。

うつの外来患者リストの10 - 15パーセントは数ヶ月以内に減少し、約20パーセントはもはやうつ病基準を完全には満たさない。

エピソードの中央値は23週と推定されており、最初の3ヶ月間で回復する率が最も高い。


日本での研究では、6か月程度の治療で回復する症例が、50パーセント程度であるとされ、多くの症例が、比較的短い治療期間で回復する。

しかし、一方では20パーセント程度の症例では、1年以上うつ状態が続くとも言われ、必ずしもすべての症例で、簡単に治療が成功するわけではない。

また、一旦回復した後にも、再発しない症例がある一方、うつ病を繰り返す症例もある。

うつ病では海外諸国におけるうつ病の自殺率は、最近の報告では59/100,000と極めて低く推測されている。



●うつ病の再発率

研究では、初めて大うつ病を経験した人の80%が一生で1回以上の再発を経験し、その平均は4回であった。

他の一般的な調査では、約半数が治療を行ったかどうかに関わらず回復しているが、残りの半数は最低1回は再発し、およそ15%は慢性的な再発を繰り返す。

再発率は、うつを繰り返すたびに高くなる傾向にあり、初発の場合の次回再発率は50パーセント、2回目の場合75パーセント、3回目の場合は90パーセントにものぼる。




●うつ病の診療科・医療機関

うつ病は早期発見が重要なファクターだが、「心の変調」に自分(または周囲)が気づいた場合でも、どの医療機関を受診すれば良いのか分からず、近所の内科などにかかることも少なくなく、症状を進行させてしまう場合がある。

うつ病を適切に診断・治療する診療科は精神科・神経科・心療内科である。

なお、神経内科は神経専門の診療科なのでうつ病は扱わない。

ただし、近年は「精神科」と聞いて抵抗感を持つ患者や家族も少なくなく、そのため医院の屋号にこれらの診療科の名前を出さなかったり、「メンタルクリニック」「こころクリニック」の名前を使う医院も多い。


各自治体の保健所や精神保健福祉センターでは、無料かつ匿名で「心の変調」やメンタルヘルスの相談に応じ、医療機関も紹介してもらえる。

学生の場合は、児童相談所やスクールカウンセラー、保健センターなどでも良い。

意外に思われるかもしれないが、保健所の業務の6割は精神保健に関するものである。



●社会におけるうつ病

米国では、うつ病による経済損失は5兆円におよぶと試算されており、その内訳は生産性低下53%、医療費28%、自殺17%である。

うつ病は現在では一般に広く知れ渡っているが、以前は「怠け病」などと呼ばれていた。

現在でも、特に軽度のうつ病の場合、怠けているだけと思われることが多い。

「誰でもかかる可能性がある」「罹患し易い」ことを表した『うつ病は心の風邪』という言葉が、一部における「うつ病は放っておいても簡単に治る」という誤解に繋がっている。




●最近のうつ病のトピックス

2011年には、山形県鶴岡市にあるヒューマン・メタボローム・テクノロジーズおよび東京小平市の国立精神・神経医療研究センターが血液中のエタノールアミンリン酸で大うつ病を診断できると発表した。

同年、広島大学などの研究グループは、血液中のBDNF遺伝子のメチル化を調べることで大うつ病を診断できる可能性があると発表したが、臨床応用できる段階ではない。



今後、研究レベルでは、うつ病等の精神疾患を客観的に診断できるマーカーを探索するために、健常者および患者の血液を用いて、プロテオミクスあるいはメタボロミクスが積極的に行なわれると考えられる。

社会的に普及するかどうかは医療保険適応か先進医療か等の費用の程度が大きな問題である。

100%やそれに近い精度では診断できないため、慎重な運用が求められる。


また、現在のうつ病性障害関連の研究は、大うつ病のみが対象であることがほとんどである。
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2014年05月23日

うつ病の治療(4)

■■■■■■ うつ病の治療(4)  ■■■■■■


●読書療法

プラセボ効果を研究するハル大学のアービング・カーシュ博士は、認知行動療法(CBT)を受けなくても、そのメリットの多くを得ることができる方法として読書療法を薦めており、臨床試験で良い結果が得られたものの中から2冊を紹介している。

『うつのセルフ・コントロール』(熊谷久代訳、創元社、1993年)、『いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法』(デビッド・D・バーンズ、星和書店、2004年)はいずれも認知行動テクニックに関する本である。

『いやな気分よ、さようなら』の臨床試験では、短期的には、標準的なCBTを実際に受けた人のほうが改善の度合いが高かったが、3ヶ月後には同等になった。

3年間の追跡調査から効果が持続的であることも示唆されている。

注意点は、読書療法の臨床試験は中程度のうつ病のみを対象として行われたことである。

軽度〜中程度のうつ病であれば、代替法として妥当だが、重度のうつ病にはどのような効果を発揮するのか分かっていない。



●運動療法

貧困、失業、大切な人との離別などがうつを引き起こすこともあるが、これらの社会的、状況的原因は薬によって変えることはできないが、薬で心理状況の改善はできる。

これらの社会的、状況的原因は変えることはできないが、この場合、運動などが有効である。

また、運動療法は薬物療法に比べてうつが再発する可能性が低い。



1800年代初め、アメリカ合衆国で広く利用されたスコットランドの医師ウィリアム・バカン(William Buchan)の医学書『Domestic Medicine』は、憂うつの治療について、「患者はできるだけたくさん戸外で運動すべきである…こうした計画に食生活の厳格な節制を加えるなら、ただ患者を家の中に閉じ込めて薬漬けにするよりも、治療法としてはるかに理にかなっていると述べている。



2004年、英国国立医療技術評価機構(NICE)は「抗うつ薬はリスク便益比の観点から、軽度のうつの初期治療には推奨できないとしている。

寧ろ、医師は薬物以外の代替法を試し、「軽度のうつ病患者には年齢を問わず、構造化された指導付き運動プログラムのメリットを推奨すべきだとしている。



2007年、NICEのガイドライン(現在は失効)によれば、フィジカルトレーニングは軽度の抑うつ治療に推奨されるとされたが、2009年に改定されたガイドラインCG90からは削除されている。


2009年、イギリスの総合診療医(GP)の20%以上(2004年の4倍)が抑うつ症状の患者にしばしば運動療法を「処方」している。

短期的には、6週間以内に著しい改善があり、効果は大きく、抑うつ症状のある患者の70%が運動プログラムに反応したという研究報告がある。

長期的にも多くの副効果(心臓血管機能・認知機能・性的機能・筋力・社会性の向上、高血圧・睡眠の改善)がある。



2009年、プラセボ効果を研究するハル大学のアービング・カーシュ博士は、運動にも心理療法や抗うつ薬と同等の効果があると紹介している。

薬物療法や心理療法ほど多面的な研究はなされていないが、効果を評価する臨床試験は沢山行われている。

主に中程度〜重度の症状に効果があり、定期的に続ける限り持続し、時間が経過すると効果が大きくなる。

さらに、疫学的研究から予防効果も示唆されている。運動の種類は「ウォーキング(有酸素運動)」「ウェイトトレーニング(無酸素運動)」など何でも良く、20分の運動を週3日行えば十分効果がある。

ただし、運動と抗うつ薬を併用するより、運動のみのほうが効果が高い。

臨床試験の欠陥を理由に運動の効果が否定されることがあるが、抗うつ薬の臨床試験にも欠陥が存在している。




重度のうつ病には運動でさえもおっくうで不可能な場合がある。

2012年、日本うつ病学会のガイドラインは「本来軽症に限った治療法ではない」と断った上で、軽症のうつ病への適用について、「運動を行うことが可能な患者の場合、うつ病の運動療法に精通した担当者のもとで、実施マニュアルに基づいた運動療法が用いられることがある。一方で運動の効果については否定的な報告もあり、まだ確立された治療法とは言えない」と述べている。

2013年、コクラン・ライブラリによれば、運動の効果は心理療法や薬物療法と同程度である。

なお、精神科に入院している患者は統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害が多く、うつ病は少ない。





●●●その他の治療法●●●

その他、限定的に行われる特殊な治療法や、実験的段階にあるものとして以下のようなものが挙げられる。


●電気けいれん療法 (ECT)・・・・・私の知り合いは、これで劇的にうつ病がよくなった。

頭皮の上から電流を通電し、人工的にけいれんを起こすことで治療を行う。

薬物療法が無効な場合や自殺の危険が切迫している場合などに行う。

最近は全身麻酔を使用した苦痛のない方法がとられることがほとんどである(そのため入院も可能な大病院でしかできない)。

安全管理も慎重に行われるようになった。

前述の場合に有効性が高い治療法であると考える臨床家も多く、保険診療でも認められている。

その一方で、薬物療法など他の方法が功を奏さない場合に限るとするなど慎重な適用を求めるものもいるほか、この治療そのものを勧めない精神科医もいる(電気けいれん療法#勧めない精神科医もいる参照)。



●経頭蓋磁気刺激法 (TMS)

頭の外側から磁気パルスを当て、脳内に局所的な電流を生じさせることで脳機能の活性化を図るもの。

日本では保険は未承認。

6週間治療での寛解率は27%程度、続く24週間治療での寛解率は50-60%程度。

副作用としては、刺激部位の痛みや不快感、頭痛など。



●断眠療法

うつ病患者が夜間眠らないことでうつ症状が急速に改善するという治療法である。

薬物治療への効果が乏しく、うつ状態が長く続いているような場合に施行される。

効果が持続しにくく、その場合、薬物療法や光療法を併用する。



●光療法

強い光(太陽光あるいは人工光)を浴びる治療法。過食や過眠のあることが多い、冬型の「季節性うつ病」(高緯度地方に多い冬季にうつになるタイプ)に効果が認められている。

冬季うつ病の第一義的な治療法は光療法とされ、抗うつ剤よりも有効性が高いことが確認されている。

また、光療法が非季節性のうつ病の治療に有効であることが実証された。

光療法がうつ病に効果があるかどうかは古くから検討されてきたものの、有効、無効の両方の報告があり、有効であることの決定的な証拠はなかったが、最新の研究成果によりその有効性が実証されるに至っている。

季節性うつ病の場合は双極性障害の可能性を念頭に置かねばならない。



●ハーブの利用

ハーブとして利用されているセント・ジョーンズ・ワートは、ドイツをはじめいくつかの国では軽度のうつに対して従来の抗うつ薬より広く処方されている。

日本ではサプリメントとして市販されている。

副作用があり、日本での治療エビデンスは希薄である。

臨床研究の結果は成否さまざまで、軽度から中程度のうつに対して有効でかつ従来の抗うつ薬よりも副作用が少ないとする研究がある一方で、プラセボ以上の効果は見られないとする研究もある。

コクランレビューによる2008年の報告によると、これまでのエビデンスからプラセボ群より優れた効果を示し、標準的な抗うつ薬と同等に効果があるが副作用は小さいことが示唆されるという。

ただし重度の抑うつには効果が弱いとされるほか、同時に服用した他の薬の効果に干渉することがあるため注意が必要とされる。

セント・ジョーンズ・ワートにおいてもセロトニン症候群の可能性があるので、注意が必要である。


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2014年05月22日

うつ病の治療(3)

■■■■■■ うつ病の治療(3)  ■■■■■■

うつ病を治す方法、鬱病を治す方法


●うつ病のその他の薬物療法

抗うつ薬の治療反応に乏しい場合、別の種類の抗うつ薬への変薬や追加(併用)のほか、炭酸リチウム、甲状腺ホルモン、抗てんかん薬、非定型抗精神病薬の追加(増強療法)、(米国などでは)アンフェタミン、メチルフェニデートなどが試みられる。

米国や日本ではアリピプラゾールも既存治療で十分な効果が認められない場合に限って認可されている。

また電気けいれん療法(ECT)、経頭蓋磁気刺激法(TMS)の適用を検討することもある。


非定型うつ病に対しては、抗うつ薬(SSRIなど)の他、気分安定薬や抗精神病薬が使用される。

不安障害を併発している場合などは抗不安薬を、不眠が強い場合は睡眠導入剤を併用することも多い。

抗不安薬・睡眠導入剤としてベンゾジアゼピン系がしばしば用いられるが、これらはベンゾジアゼピン依存症・ベンゾジアゼピン離脱症候群をまねき、うつ病を悪化させる。

各国政府はベンゾジアゼピンの処方を最大でも数週間に限るよう勧告しており、NICEではベンゾジアゼピン系の投与は患者と討議の上で短期間のみに限定され、慢性不安症への投与禁止、薬物依存を起こすため2週間以上の投与禁止と定められている。

うつ病の予防・治療日本委員会(JCPTD)によると、薬物治療急性期には抗うつ効果発現までのベンゾジアゼピン系薬物処方は有用であるが、依存性のため長期投与は推奨していない。





●うつ病の薬物療法と自殺

抗うつ薬による治療開始直後には、年齢に関わりなく自殺企図の危険が増加する危険性があるとアメリカ食品医薬品局 (FDA) から警告が発せられ、日本でもすべてのSSRIおよびSNRIの抗うつ薬の添付文書に自殺企図のリスク増加に関する注意書きが追加された。

FDAは、子供・青年・18-24歳の若年者に対しては、SSRI治療は自殺願望と自殺的行動について高いリスクが存在すると報告している成人についてはSSRIと自殺リスクの関係は明確ではない。

あるレビューでは関係性が認められておらず、別のレビューではリスクが増加すると報告され、第三のレビューでは25-65歳ではリスクはなく65歳以上では低リスクと報告している。



疾病データ上では、新しいSSRI時代の抗うつ剤の普及により伝統的に自殺リスクの高い国で自殺率の大幅な低下をもたらしていると分かったが、因果関係は確定されていない。


米国では2007年に、SSRIとその他の抗うつ薬について24歳以下の若年者では自殺リスクを増加させる可能性があるというブラックボックス警告がなされた。

同様の警告は日本の厚生労働省からもされている。


米国ではFDAの警告以降に若年者の自殺死者数が増加している。

FDA警告の結果、若年者の抗うつ薬治療が少なくなり、結果として自殺者が増えたとすれば問題である。



APAガイドラインでは、抗うつ薬は自殺リスクを減らすエビデンスは小さい、しかしうつ症状の軽減に必要だとしている。


NICEガイドラインによると、2005年4月にヨーロッパ医薬品評価委員会はSSRIとSNRIについて、子供と青年には処方すべきではない(承認適応症を除くがこれは通常の抑うつは含まない)としている。

英国『モーズレイ処方ガイドライン第10版[注 4]』(2009年)では、うつ病の治療が希死念慮および自殺企図を防ぐ最も効果的な方法であり、ほとんどの場合、抗うつ薬による治療が最も効果的な方法であるとしている。




●うつ病の精神療法(心理療法)

貧困、失業、大切な人との離別などがうつを引き起こすこともあるが、これらの社会的、状況的原因は薬によって変えることはできないが、薬で心理状況の改善はできる。

これらの社会的、状況的原因は変えることはできないが、これらの場合、心理療法の認知行動療法(CBT)や読書療法などが有効である。

また、心理療法は薬物療法に比べてうつが再発する可能性が低い。



1998年、世界精神医学会(英語版)の「WPA/PTD うつ病性障害教育プログラム」は、高齢者への精神療法の適用について、「精神療法のみ」「精神療法と抗うつ薬の併用」の二つを挙げている。

また、「多様な治療法がある」「再発を予防するために、投薬は継続しなければならない。治療の成功は社会心理的支援がかかせない」としている。


2009年、プラセボ効果を研究するハル大学のアービング・カーシュ博士は「心理療法のみの場合と、心理療法と抗うつ薬を併用する場合の効果の大きさは同じなのだから、なぜ、わざわざ抗うつ薬を持ち込む必要があるのだろうか」と述べている。

両方を併用すれば、抗うつ薬だけを服用するより効果があるが、心理療法を単独で行う以上の効果はない。

英国国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインは心理療法の重要性を認めており、6〜8回の認知行動療法(Cognitive behavioral therapy、CBT)または他の心理療法を推奨している。


具体的には、軽度〜中程度はカウンセリング、再発した場合はCBT、重度の場合はCBTと抗うつ薬との併用を勧めている。

英国政府は臨床試験で効果が証明された認知行動療法をはじめとする心理療法の拡充を開始し、薬物療法に代わる治療法として成果を上げている。



2012年、DSM-IVのアレン・フランセス編纂委員長は「精神科の軽度、中程度の症状には、精神療法が少なくとも薬物療法と同じくらい効果があり、精神療法のほうが持続効果は長く、副作用は少ないのです。

非常に多くの人が必要のない薬物療法を受け、回復に大きく役立つであろう精神療法を受けていないというのは、理不尽であり、経済的動機がそうさせているのだと思います」と述べている。

重症の場合、心理療法単独では十分でない。

NIHは、高齢者の場合、再発防止のため薬物療法の併用が有効であるとしている。



●認知行動療法

外界の認識の仕方で、感情や気分をコントロールしようという治療法。

抑うつの背後にある認知のゆがみを自覚させ、合理的で自己擁護的な認知へと導くことを目的とする。

対人関係療法も認知行動療法の要素を持つ。



考え方のバランスを取ってストレスに上手に対応できるこころの状態をつくっていく。

認知行動療法は魔法ではない。

うつ病においても、薬物だけで治療した場合に比べ、認知行動療法を併用した方が、症状の改善と再発予防に効果的であると認められている。



現在認知行動療法(CBT)は、子供と青年の抑うつに対して最も研究エビデンスが多く存在する。

CBTと対人関係療法(IPT)は思春期の抑うつに対して勧められる。英国国立医療技術評価機構(NICE)では、18歳以下の人について薬物治療を行う場合はCBT・ICT・家庭セラピーなどといった心理療法を併用しなければならないとしている。



アメリカ精神医学会のガイドラインでは、認知行動療法等の心理療法は患者の初期治療の選択肢として推奨されている。

日本うつ病学会では、認知療法は薬物療法と同時並行的に行われる精神科治療の基本であり、薬物療法に代わる治療法という見方は明らかに間違っていると強調しているが、同時に、認知療法の優位性を示す研究データがあることも暗に認めている。

うつ病の予防・治療日本委員会(JCPTD)では慢性化していない例では抗うつ薬より推奨している。



認知行動療法は、心理職が国家資格化されている国々では、精神科(精神科医、薬物療法中心)、心理療法科(サイコロジスト、心理療法中心)に分かれることがあり、薬物療法と同時並行的に行われるとは限らない。

認知行動療法は12回〜13回程度で終了するので、3ヶ月程度の短期治療では意味があるが、うつ病が3ヶ月を超えて長期化した場合は、薬物療法等の別の治療法を模索する必要がある。


うつ病患者の8割に伴う不眠症であるが、認知の歪みが原因では無いので、認知行動療法の効果は小さい。

不眠症に対しては、別途精神科から睡眠導入剤を処方してもらう必要がある。

ラベル:認知行動療法
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うつ病の治療(1)

うつ病を治す方法、鬱病を治す方法

■■■■■■ うつ病の治療(1)  ■■■■■■

●うつ病の治療

1950年代に抗うつ薬が登場するまでは、電気けいれん療法(1938年創始)、ロボトミー(1935年創始)しか効果の証明された治療法が無かったが、その後抗うつ薬が登場し薬物治療が発達した。

現在、うつ病治療としては(1)休養 (2)薬物療法 (3)精神療法 (4)環境調整 (5)特殊療法(ECTなど)などが組み合わせて行われる。

中でも薬物療法と休養が原則とされる。



基本的に現在はまずうつが病気であることを本人・家族が納得し、「無理をせず、養生して、(原則として)薬を飲んで、回復を待つ」ことである。

自殺の危険性が高い症例では、入院治療が必要となる。

特に、「死にたい」とか「消えてしまいたい」「自分は居ない方がいい」などの希死念慮や自己否定的な内容を口にする場合には、自殺の危険性があり、すみやかな受診が必要である。



●休養

休養がうつ病の特に病初期(急性期)には重要であり、日常生活に著しい障害が生じている場合には、仕事を休んだり、主婦であれば家事を誰かに手伝ってもらうなど、社会的役割を免除してもらい、休養する必要がある。

そのため、自殺の危険は少ない場合でも、入院の適応となる場合がある。

日常生活における障害が軽い軽症例では、これまで通りの生活を続けながら、薬物治療などを行うこともある。

休養、薬物療法、精神療法は治療の3本柱であり、身体疾患と基本的に同じである。



●心理教育(うつ病の対応の原則)

病初期(急性期)の心理教育の原則として「笠原の小精神療法」が有名である。

1)うつ病は病気であり、単に怠けではないことを認識してもらう

2)できる限り休養をとることが必要

3)抗うつ薬を十分量、十分な期間投与し、欠かさず服用するよう指導する

4)治療にはおよそ 3 ヶ月かかることを告げる

5)一進一退があることを納得してもらう

6)自殺しないように誓約してもらう

7)治療が終了するまで重大な決定は延期する



内因性うつ病の症状は、“気の持ちよう” “努力”などで変えられるものではない。

変えられないものを、変えようと無理をすれば、症状を悪化させる。

むしろ、変えようとせず、憂うつな気分に逆らわず、十分な休養を取りながら、回復を待つべきである。

うつ病の症状の一つに、将来を悲観してしまうことがある。

病気のため、もう治らないとしか考えられなくなることも多い。

しかし、うつ病はいかに重症でもいつかは改善するものである。

いつかは良くなるという希望を持つことが重要である。



またあせって人生の決断を下さない方がよい。

例えば転職・退職、離婚などの重要な決断はなるべく後回しにする。

一般にうつ病のため判断能力は低下していることが多く、適切な判断が下せないことが多い。

治療の前提として、治療の基本的原則について、しっかりと医師が説明を行い、患者が納得して治療に取り組むことが必要である。

また、投薬についても、医師がしっかりと説明する必要がある。

患者も、分からないことは質問していくことが必要である。

こうした医師と患者のコミュニケーションが治療の成功には不可欠である。

また、うつ病の一人一人の患者においては、信頼できる主治医をもち、自分に合ったアドバイスを主治医にもらうことが最も重要である。




●家族の対応

家族など周囲の人たちも、長い目でうつ病患者を見守ることが求められる。

「頑張れ」や「さぼるな」という言葉は、患者自身の力ではどうしようもない今の状態を、今すぐに自分の力で変えるようにと、無理を求めるものとなる。

そして、このような言葉は、患者を追いつめ、最悪の場合、自殺の誘因とならないとも限らない。

患者のみならず、周囲の人々も、患者がうつ病であり、患者自身の力では今の状態から抜け出せないことを受け入れ、長い目で回復を信じ、あせらないことが必要である。

「気の持ちようではないか」「旅行にでも行って気分転換してはどうか」といった言葉も、適切ではない。

うつ病でなくとも、嫌なことが起きれば、嫌な気分になるし、そういった一過性の軽い抑うつ気分は多くの人が経験する。

これらの言葉は、うつ病もそれと同じように対処すれば良いものと見ている。

しかし、長期間に及ぶような酷いうつ状態(つまりうつ病)の場合には、適切な治療なしには気の持ちようを正すこともできず、旅行に行く気力も出ないため、これらの言葉はかえって患者を苦しめる。

患者がこれらのアドバイスを受け入れられるほど回復したかどうかの見極めが大切である。




●環境調整

とくに心因が強く影響していると考えられるうつ病の場合、環境のストレスが大きい場合は調整可能かどうかを検討し、対応する。

心理的葛藤に起因すると思われるうつ病では、原因となった葛藤の解決や、葛藤状況から離れることなどの原因に対する対応が必要である。

またうつ病の回復期・リハビリ期においては、段階的復職などの配慮が必要である。

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、リワーク支援を実施している。

ストレスへの対処法(認知行動療法の一部)、リハビリ出勤、会社との調整など実施している。

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